惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 ジルさんは私の姿に気付き、ニコッと爽やかな笑顔を向けた。

「やあ、エリーゼ嬢。ああ・・・とても綺麗だね。是非エスコートしたい所だけど、手を握ったらルーカスに殺されそうだからやめといた方が良さそうだ」

 ニコニコと変わらない笑みを浮かべながら、なかなか怖いことを言っている・・・でも、確かに、その通りかも・・・。

 私に続いて、店主と大きな荷物を持った従業員の人達が部屋から出てきた。

「それでは、私達はここで失礼致しますわ。今後とも、末永くよろしくお願いしますわね。次からはお金の事など気にせず、お好きなドレスをお選びくださいませ。サンドロス夫人」

 急に営業スマイルで微笑む店主だったが、私の方は『サンドロス夫人』という聞き慣れない呼び名に、恥ずかしさのあまり返す言葉が見つからず固まっていた。

「それでは・・・ジルバート皇子殿下、私はこれで失礼致します」

「ああ、ありがとう。さあエリーゼ嬢、時間が無いから早く行こうか」

 ジルさんはそう言うと、先を歩き出した。
 しかし私は動けなかった・・・。
 今・・・さらっと爆弾発言飛び出なかった・・・?
 皇子殿下・・・?つ・・・つまり・・・ジルさんは・・・皇帝の息子ってこと・・・!?は!?

 思考はまだ追いつかないけど、とりあえず置いていかれそうなので、慌ててジルさんの後ろを付いて歩いた。
 その背中に、恐る恐る声をかけた。

「あの・・・。ジルさんって・・・皇子様だったのですか・・・?」

「ああ・・・まぁ、実はそうなんだけど、別に気にしなくていいよ?皇太子はすでに決まってるし、私は戦場で戦ってる方が性に合ってるしね。それに血を見るのは好きなんだ」

 ・・・え・・・?ジルさん・・・そういう趣味あるの・・・?

 意味深にニヤリと笑ったジルさんを見て、少しゾッとしてしまった。
 
「あと、今日はうちの騎士団の人間も来てるから、ちょっと大所帯になってるけどびっくりしないでね。・・・あ、ちょうどルーカスも準備が出来たみたいだよ」

 ジルさんの言葉にドキリ・・・と胸が高鳴った。

 昨日、勝手に結婚式を決めてしまったルーカスとは口を利かないまま、私は自分の部屋に引きこもった。
 あのお屋敷の中に、既に自分の部屋が存在してる事には驚いたが、内装まで完璧に私好みに仕上げられていたのには少し引いた。
 まあ、少し嬉しくもあったけど・・・とりあえず昨日は部屋の鍵をしっかり施錠して休ませてもらった。

 朝、目が覚めた時には屋敷内はバタバタと使用人達が忙しそうに駆け回っていた。私も部屋に用意された朝食を食べた後は湯浴みに連れていかれ、全身のマッサージや髪の毛のお手入れをされ、そのまま馬車でこの教会へと連れてこられて今に至る。
 なので、今日ルーカスと会うのは初めてだ。
< 197 / 212 >

この作品をシェア

pagetop