惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
エピローグ:もうひとつの物語
「はぁぁぁ・・・疲れた・・・・・・」

 ようやく全ての仕事から解放された僕は、私物の入ったトランクを片手に屋敷から出た。
 とっくに日は暮れ、夜空に散らばった星が輝きを放っていた。

 今日、ルーカスとエリーゼ嬢の結婚式を無事に終える事が出来た。
 2人は晴れて夫婦になることが出来ました・・・めでたしめでたし・・・・・・ってなるんだろうけどさ、裏で振り回された人間達の事も少しは(ねぎら)って欲しい。

 この1週間、家に帰る事も出来ない程、無茶な仕事量を押し付けやがって・・・挙句の果てに、僕に結婚式の後始末をさせて自分達はさっさと屋敷の寝室に篭って出てくる気配が無いとか、さすがに酷すぎないか・・・?

 屋敷の門を出た所に、見慣れた馬車が止まっていた。
 その馬車に近づいていくと、扉が開いてユーリが顔を覗かせた。

「ダン、お疲れ様。迎えに来たわよ」

「ああ・・・ありがとう」

 ユーリがわざわざ迎えに来るなんて珍しい。
 1週間ぶりの夫の帰宅が楽しみで迎えに来てくれたのだろうか・・・なんてね。
 それは分からないけど、わざわざ馬車を出して迎えに来てくれた・・・それだけで今の僕にはユーリの優しさが染み渡る。

 僕は馬車に乗り込み、ユーリと向かい合わせになるように座った。
 さっきも思ったけど・・・ユーリの目が少し腫れている。
 恐らく、泣いたのだろう・・・。その理由はなんとなく分かった。

 ユーリは昔、ルーカスがエリーゼに宛てた手紙を盗んでしまった。
 その事に対する罪悪感に長い年月、悩み苦しんできたんだと思う。
 彼女はプライドがとても高く、自分の弱みを人に見せることは決してない。だけど、本当はとても優しく、繊細な事を僕は知っている。
 無事に2人が結ばれて、安心したんだろうな。

 ふと、ある疑問が浮かんだので、ユーリに聞いてみる事にした。

「そういえば、ルーカスがエリーゼ嬢に宛てた手紙はどうしたんだい?」

「・・・なんでそんな事聞くのよ・・・?」

 ユーリは少しムッとして僕を睨んだ。

「いや、ちょっと気になってね・・・あの手紙はまだ持ってるのかい?」

 もし存在するのであれば、証拠隠滅はしておいた方がいい。

「・・・・・・燃やしたわよ。家の焼却炉で・・・」

「・・・そうか。それならよかった」

 燃やしたのなら安心した。これ以上ややこしくなる事は無さそうだ。

 ・・・ん?・・・燃やした・・・・・・?
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・ぷ・・・

< 204 / 212 >

この作品をシェア

pagetop