惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 俺はエリーゼの手を強く握りしめ、彼女の姿を見ると、なにやら恥ずかしそうに俯いている。
 ・・・もしかして服装の事を気にしてるのだろうか?
 だとしたらちょうど良かった。
 この店に来ることはすでに決まっていたからな。

「エリーゼ、ここに入ろう」

 最初の目的地である女性向けの衣料品店に辿り着き、エリーゼを店の中へと誘った。

「サンドロス卿!こんな所へ来ていただけるなんて、光栄の至りでございますわ!」

 俺の姿に気付いた馴染みのある店主が、深々と頭を下げて挨拶をした。
 彼女も俺がここに来る事は予め把握していたが、あくまでも偶然訪れたという事にしてほしいと、口裏を合わせている。

「俺の婚約者が驚くから、あまり畏まらないでほしい。それよりも、彼女に見合うドレスを頼みたい」

 婚約者・・・なんと良い響きだろうか・・・。

 思わず笑みがこぼれそうになる・・・。
 俺がその言葉に感動し浸っているうちに、彼女は店主に背中を押されながら試着室の方へ進んでいく。
 その戸惑う様子は、何か不安がっているようにも見えた。
 エリーゼの事だから、お金の心配をしているかもしれない。
 もちろん、エリーゼに払わせる気など1ミリもない。
 結婚すれば俺のお金もエリーゼの物になるわけだし・・・。
 エリーゼのために溢れんばかりの財力を手に入れたのだから、ここで使わずして何処で使うというのか。

「エリーゼ、好きな物を買うといい。選べないなら、気になった物を全て買い取ろう」

「・・・え・・・?」

 ポカンと口を開けて目を丸くしたエリーゼはそのまま試着室の中へと連れていかれ、その扉が閉ざされた。

 さて・・・エリーゼはしばらく出てこないだろう。
 丁度いい。俺にもやるべき事が出来た。

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