惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 俺は店の外へ出てすぐの路地裏に入り、しばらく進んで人気(ひとけ)が無いのを確認した。

「仕事を頼む」

「はい・・・」

 俺の言葉に、おれの『影』が気配を現し、その姿は見せずに声で応えた。

 俺には『影』と呼び、隠密に仕事をする従者が存在する。
 影のように常に俺と行動を共にする彼には、主に俺の護衛や、公にできない様な仕事を任せている。
 この『影』の存在を知るものは、俺の屋敷の人間でも極小数である。

「今すぐユーリを捕獲し、俺の屋敷へ連れて行け。たとえ抵抗されたとしても、確実に実行しろ。くれぐれも、旦那にはバレないようにな」

「はっ!」

 俺の命令と共に『影』の気配は消えた。

 ユーリの屋敷はここからすぐ近くにある。
 彼女が屋敷の中にいるのならば、俺の『影』は今すぐにでも彼女を捕獲出来るだろう。
 出掛けているとなると、少し時間はかかるだろうが問題ないだろう。

 これで、とりあえずはユーリの家に行く事になっても、エリーゼとユーリが顔を合わせることは無い。
 ユーリには悪いと思うが、彼女も一応共犯者でもある。
 とことん付き合ってもらって結婚式まで見届けてもらうしかない。

 俺は何事も無かったかのように店に戻ると、エリーゼはまだ試着室の中に居た。

 俺はしばらくエリーゼがどんなドレスを着て出てくるのか・・・頭の中で着せ替え人形の如く妄想を膨らませながら、待つ時間を楽しむことにした。
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