惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
8:一緒に食事をしたい
 店主に見送られて衣料品店を出た私達は、顔を合わせることなく、少し気まずさを抱えながらしばらく無言で歩いていた。
 急にルーカスに手袋を外されそうになって、咄嗟に止めてしまったけど・・・何故急にそんな事をしたのだろうか・・・。

 この傷を見ても、ルーカスが傷付くだけなのに・・・。
 私の隣りを歩くルーカスの顔をコソッと覗いてみたが、彼も少し暗い表情をしている。
 多分、さっきの事で落ち込んでいるのだろう。
 あのまま止めずに傷を見せてしまったほうが良かったのだろうか・・・?

 ・・・とにかく、せっかく素敵なドレスを着せてもらったのに、このままでいるのはさすがに良くない。

「ねえ!これからルーカスの御屋敷に行くのよね?」

 私はこの気まずい空気を吹き飛ばす様に、声を弾ませてルーカスに話を切り出した。
 急にテンションが高くなった私にルーカスは一瞬戸惑ったようだったが、すぐに表情が和らぎ、まだぎこちなさが残る笑顔を向けてくれた。

「ああ・・・いや・・・その前に、一緒に食事をしないか?」

 ・・・そういえば、気付けばすっかり昼になっている。
 言われてみれば、お腹も空いてきた気がする・・・朝ごはん食べたのも早かったし・・・。
 よく考えたら私よりもルーカスの方がもっとお腹がペコペコなんじゃないだろうか?
 ・・・だとしても・・・

「すぐにルーカスの御屋敷に行かなくて大丈夫なの?」

「ああ・・・屋敷に戻ったらしばらく仕事でエリーゼと一緒に過ごせなくなるからな・・・。せめて昼食は一緒に食べたい」

 ルーカスは私と過ごすことの方が大事だと思ってくれている・・・それはとても嬉しい事なのだけど・・・待たせている公爵様は大丈夫なのだろうか?
 公爵様ってたしかめちゃくちゃ偉い人よね・・・?

 ・・・だけどあの悪役令嬢の父親と考えると、あまり良い印象は浮かんでこない・・・。
 ・・・うん。ルーカスが言うなら待たせてても問題ないか!

「そうね!私もお腹が空いてきたとこなの!美味しい店を紹介してよね」

 私の言葉にルーカスは嬉しそうに笑って頷いた。
 その表情には、先程までの暗さは微塵も感じられない。

「じゃあエリーゼ、行こうか」

 そう言って差し出してくれた手をとり、私達は再び手を繋いで首都の街並みを歩き出した。
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