惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
10:屋敷へ連れて行きたい(ルーカスside)
 食後のコーヒーを堪能した俺達は、ダンが手配した馬車へ乗り込んだ。
 どさくさに紛れて一緒に乗ろうとしたダンを蹴落として、馬車は俺の屋敷へと出発した。

 エリーゼの事を考えて馬車を手配した事は褒めてやるが、俺の屋敷まではそんなに距離はない。
 ダンが走れば俺達の馬車が屋敷に到着する頃には十分間に合う。
 運動不足のアイツにはちょうど良いだろう。

「馬車に乗るなんて、何年ぶりかしら」

 俺の向かい側の席に座るエリーゼは、馬車の窓から見える街並みを楽しそうに眺めている。

「俺も久しぶりだな・・・」

 俺が遠方へ向かう時は、よっぽどの事がない限りは必ずコールに乗って移動する。コールが走る速度は通常の馬と比べて桁違いに早い。
 俺が首都に住んでいるにも関わらず、頻繁にエリーゼの元を訪れることが出来るのは、コールのおかげと言ってもいい。
 
 正直・・・馬車には良い思い出がない。
 父親が失踪し、母親と首都から逃げるようにして村へ向かった時・・・。
 そして・・・エリーゼを迎えに行くために馬車で向かったものの、彼女に拒絶され、途方に暮れて1人馬車に揺られて帰った時・・・。
 馬車に乗るとあの日の事を思い出す。
 ただただ絶望し、生きる意味すら見失いかけたあの時を・・・。

 ・・・大丈夫だ・・・今はエリーゼがいる。
 目を合わせれば、俺を好きだと反応してくれる彼女がここにいてくれる。
 あの時とは違う・・・。

 俺の中に沸き起こる雑念を打ち消す様に、俺は強く目をつぶった。

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