惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 村にいた頃のルーカスはどちらかと言うと、体を使うことよりも頭の良さが際立っていた。
 そんなに運動神経は良くなかったはず・・・ならば、そこに至るまで、どれだけ血の滲むような努力を積んできたのだろう・・・。

「・・・そんなに凄い人が、簡単に騎士団を辞める事が出来たのですか?」

 しかも最年少で皇室直属騎士団に入団したのなら、それなりに注目もされていたはず・・・。
 実力もあるなら皇室が手放すはずが無いと、普通なら思うけど・・・。

「それが出来たんだよ。なんせ彼は命令違反の常習犯だったからね。団長の待機命令を無視してよく突っ走っていたよ。団長はそんな彼の扱いに困っていたからね」

 ・・・さすがルーカス・・・戦地でもせっかちな所はブレないのね・・・。

「でも、彼の判断はいつも迅速で正しかったよ。その判断に命を救われた仲間は多い・・・だから彼が騎士団を辞めた後も慕うやつは多いんだよ。私もその一人だしね」

 ・・・そうだったんだ・・・。
 私はルーカスが突然村を去った後、寂しさから家に閉じこもり気味になっていた。
 彼と過ごした日々を思い出す事も辛く、忘れようと思った時期もあった。
 だけど、そんな風に私が過ごしている時、彼はいつ死んでもおかしくない過酷な地で戦っていた・・・。
 そしてたくさんの人達の命を救っていた・・・。

 私は彼の無事を祈る事すらしていなかったというのに・・・。
 私は本当に何も知らなかった・・・いや・・・知ろうとしなかったんだ・・・。

「そんな彼の事だから、男爵の地位を得た時には、さっさと村で待たせてる女性と結婚すると思ってたんだ。彼が村を出る時に、思いを綴った手紙を残して離れ離れになったという女の子とね」

 ・・・手紙・・・?
 ルーカスは村を出る時に、誰かに手紙を渡していたの・・・?
 その人が・・・ルーカスが大切に思っていた人・・・。

「ねえ、君なんでしょ?彼が待たせてた女性って」

「・・・え?」

 さも当たり前の様に言われ、戸惑う私をジルさんは不思議そうに見つめた。
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