惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「ルーカスは・・・何故騎士になったのでしょうか・・・?」 

 私の問いかけに、ジルさんはソファーにもたれ掛かり、天井を見つめると、記憶を追いかけるかのように話し始めた。

「一度だけ、アイツを無理やり飲みに連れて行った事があってね・・・。その時になんで騎士になったのか聞いてみたのさ。そしたら、珍しく酔った彼が話してくれたよ。強くなりたかったから・・・大切な人を守れる力が欲しかったから・・・ってね」

 大切な人・・・その言葉が私の心に引っかかった。
 彼にとって大切な人とは一体、誰の事だったのだろうか・・・。

「強くなりたいだけなら、何も騎士になる必要はないだろ?って聞いたら、「実戦で経験を積まないと役に立たない」だってさ。あいつは国に忠誠を誓う訳でもなく、華やかな功績を手にしたい訳でもなく、ただ強くなりたいってだけで死地に行ってたんだから、どうかしてるよ」

 ジルさんはソファーに預けていた体を起こすと、テーブルの上に置かれたお茶の入ったティーカップを手に取り、そのお茶に目を落とした。

「騎士になったら3年はひたすら戦地で実戦経験を積まされる。この3年を戦い続け、生き延びた者こそが真の皇室直属騎士団の騎士としての栄誉を与えられる。・・・3年間、彼は戦地の最前線で戦い続け、生き延びた・・・。」

 ジルさんはティーカップのお茶を1口ゴクリと飲んだ。
 その所作の美しさに暫し目を奪われていると、彼はクスッと笑った。

「そして戦地から戻ってきた彼は、あっさり騎士を辞めたよ。」

「え・・・?」

「ルーカスにとっては、実戦経験以外は特に必要無かったんだ。大切な人を守る実力を手に入れた彼は、今度はその人を迎えるための富と、確固たる地位を手に入れることに奮起したんだ。騎士を辞めたのはもったいなかったけどね。ルーカスは騎士団の中で一番の実力者だったし・・・。なんと言ってもあの凄まじいスピードで戦地を駆け回り敵を薙ぎ倒して行く姿・・・赤い閃光なんて呼ばれて恐れられてたよ。」

 ・・・話を聞けば聞くほど、私の知るルーカスとはかけ離れていて、まるで知らない人の話を聞いているようだった。
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