消えた未来
 箸を取り、適当に食べ始める。

「そもそも、侑生はあの子たちに病気のことを話すくらい仲が良かったの?」
「いや、クラス替えして初めて喋った」

 蘭子は目を見開いて俺を見る。

 俺でも信じられないと思っているから、この反応は当然だろう。

「それで思い出を作りたいって言うのも、意味がわからない」

 これは織部さんに向けた言葉みたいだ。

 蘭子はずっと織部さんに対していい印象を抱いていなかったみたいだけど、さっき教えたことで余計に敵意を抱いてしまったみたいだ。

 ただ事実を言ったにすぎないけど、少し織部さんに悪いことをした気分になる。

 いや、教員の立場にいる蘭子がここまで生徒に嫌悪感を抱くのもどうなんだって話でもあるけど。

 しかし、いくら申し訳ないと思っても、今織部さんを庇うようなことを言うと逆効果になるような気がして、俺は黙って弁当を食べ進めた。

 蘭子も話すことがなくなったのか、静かに昼を食べ終えて、仕事を始めた。

「ねえ」

 かと思えば、急に声をかけてきた。

 ちょうど弁当が空になり、俺は片づけをしながら返事をする。

「侑生は、本気で学校で誰とも仲良くなるつもりはないの?」

 そんな質問が来ると思っていなくて、蘭子を見るけど、蘭子は顔を上げない。
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