消えた未来
 私は月渚ちゃんに断りの言葉も言わずに、スマホを操作する。

 新たな生活に足を踏み入れていたはずが、その名前を見ただけで、私の心は高校時代に戻っていた。

【久我君に会ったの?】
【会ったというか、病院で見かけただけ】

 それでも、ずっと見つけられなかったのに比べたら、随分な進歩だ。

【病院って、星那、どこか悪いの?】
【お母さんが足骨折して入院中。てか、久我のことは聞いてこないの?】

 二つの事件的内容に、頭が追いつかない。

 久我君のことを知りたいのは当然だけど、星那のお母さん、由希子さんが入院中というのも無視できない。

「真央ちゃん、大丈夫?」

 なにを返そうか考えていたら、月渚ちゃんが心配そうに聞いてきた。

 そんな表情をさせてしまうくらい、私は顔に出ていたらしい。

 しかし、言葉が出てこない。

 言いたくないわけではない。

 月渚ちゃんは言いたくないなら断るべきだと教えてくれた。

 だから、断りにくくて迷っているわけではない。

 どう説明すればいいのかがわからないだけだ。

「……ずっと探してた好きな人が、見つかったって」

 少しずつ記憶と感情を擦り合わせながら、過去話をしていく。

 どれだけの時が流れても、あのころの苦い思い出は色褪せていなかった。
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