消えた未来
『好きかもしれない』が、『好き』に変わった瞬間だった。

 俺は今から、この子を傷付けないといけないのか。

 そう思うと、心が痛かった。

 だけど、織部さんには俺のことは忘れてほしいから。

 こんな嫌な奴、覚えていてやるかって思ってほしいから。

「……あのさ」

 腹を括って出てきた声は、自分でも引くくらい、低い声だった。

 織部さんの表情が一気に曇る。

 そこから、本心とは真逆の言葉を並べていった。

 織部さんの顔を見ると本音が出てきそうだったから、目も合わせられなかった。

「……だから、俺の未来に君はいらない」

 その言葉を合図に、織部さんは保健室を飛び出した。

 同時に、俺はその場に座り込む。

「侑生」

 先生と蘭子が同時に駆け寄ってくる。

 だけど、俺は体調が悪くなって座り込んだわけではなかった。

 視界が滲み、涙が止まらない。

「なんだ、これ……」

 自分の涙に戸惑いながら、拭う。

 胸が苦しい。

 自分で彼女を傷付けると決めたくせに、彼女の泣きそうな顔が頭から離れない。

 それに、誰かを傷付けることで、自分がこれほど苦しくなるなんて、知らなかった。

 声を殺して、涙を流し続ける。

 空気で、二人も困っているのがわかった。

 だけど、俺の意志では止めることができなかった。
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