消えた未来
 当初の目的を果たせたと思ったら、久我君は首を傾げている。

「織部さんが謝る必要はないと思う。俺は、織部さんが俺としたいことを考えてくれてたの、嬉しかったし、なにするのか楽しみだったから」
「本当?」

 盛大な嘘をつかれたと知ったあとだから、その言葉を素直に信じることができなかった。

「本当だよ」

 だけど、優しく微笑む久我君を見ると、嘘ではないのだと思えた。

 本人だから当然だろうけど、それはどんな人の励ましよりも、私の心の傷を癒してくれた。

 これはきっと、その癒しに流されてしまったのだと思う。

「じゃあ、私のことを……いや、なんでもない」

 言いながら、それを自分で確認するのは、妙に恥ずかしくなった。

「好きだよ」

 私としてはなかったことにしたかったのに、久我君ははっきりと言った。

 驚いた勢いで顔を見ると、とても真剣な眼をしている。

 これほどまっすぐに言われると、反応に困ってしまう。

「照れてる?」

 久我君はにやにやしながら言ってきた。

 逆に、どうしてそんなに平気なのか知りたい。

 これ以上からかわれるのは嫌だったから、私はその場を離れようと立ち上がる。

 すると、久我君に手首を掴まれた。

 放してほしいと言おうとしたけど、久我君の真剣な顔を見て、声が出なかった。
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