消えた未来
 当然だった。

 毎日のように疲れた顔をして、笑顔を作る母さんを見ていると、あれが欲しいだとかいうことは、言えるわけがなかった。

 結局、働いた分しか用意していないと言われて、俺は受け取ることにした。

 その金で最初にしたのは、母さんへのプレゼントを買うことだった。

 女性のおしゃれなんて一つも知識がなかったけど、母さんに似合いそうだと思って、赤い口紅を買った。

「いつも俺のために働いてくれて、ありがとう」

 特別な日でもないのに、素直な気持ちを言うのは恥ずかしかったけど、俺には“いつか”なんてないってわかっていたから、その気持ちを押さえ込んで、ちゃんと言葉にして伝えた。

 母さんは泣きながら、何度もお礼を言った。

「私はもう十分だから、侑生のお金は、侑生が使いたいことに使ってね」

 そんなことを言うってことは、喜んでくれなかったのかと思ったけど、どう見ても喜んでいるから、それは違うと思った。

 でも、母さんにプレゼントしたいと思って買ったし、これも使いたいことの一つだったから、後悔はない。

 まだ感謝の気持ちを伝え切れていなかったけど、これ以上すると母さんが気にすると思って、やめておいた。
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