消えた未来
「貴方たち、侑生のことは、絶対に誰にも言わないでね」

 重たい空気の中、先に話したのは先生だった。

 どこか怒っているように見えて、首を縦に振ることしかできなかった。

 星那もさらに質問を続けることができなかったようで、私たちは保健室を出ることにした。

「失礼しました」という声は、揃って小さかった。

 廊下を歩いて昇降口に行き、校門を出ても、私たちはなにも話さなかった。

 というより、なにを話せばいいのか、わからなかった。

 黙って歩き進めることで、処理しきれていなかった情報が整理されて、少しずつ納得のいく事柄が思い浮かんだ。

 久我君が達観しているように見えたのは、久我君の叔父さんの影響だったんだ、とか。

 喫茶店のお手伝いをしていたから、人脈が広かったんだ、とか。

 無理に聞き出してしまったことに対しては、申し訳なく感じていたけど、それを知れたことによって、本当の久我君を見つけることができたような気がして、嬉しかった。

「ねえ……久我の病気って、絶対に治らないのかな」

 しばらく歩いていたら、星那が自分の足先を見つめながら、小声で言った。

「二十歳まで生きられるかわからないって言われてるみたいだから、そうなんじゃないかな」
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