酔いしれる情緒



「………、…凛?」





瞬時に振り返っては、春の腕を掴む。


私に背を向けてリビングの何処かに行こうとしていたらしい春は、私のその行動に目を丸くさせていた。





「どうしたの?」





ニコリ。また、笑みを浮かべる、春。





「アンタ……今日、なにかあった?」




私はその笑みに違和感を感じたのだ。





「なにかって?」

「それは……分からない、けど」





だから聞いたんじゃない。





「……無理して笑ってるように見えたから」




一歩、また春に近づく。



覗き込むように春の端正な顔を見つめると、彼は数回瞬きをした。





「違った?」





そう。彼は数回瞬きをしただけで、私の問いかけに対する反応は無かった。



となれば、私の勘違い、だったのかも。








「…ごめん。やっぱりなんでもない」




気にしすぎだと思い、するりと手を離す。…が。





「なんで、気づいちゃうのかな」





手が離れる直後、

春は私の小指だけをキュッと握った。





「凛には俺の演技が通用しないみたいだね」





色素が薄くて


とても綺麗なその瞳に私の姿が映る。





「……なあ、凛。」





そしてまた私に笑顔を向ける彼は





「俺を癒やしてよ」





さっきの表情とは全く違い、肩の力が抜けたような、柔らかい表情で笑顔を浮かばせる。



だけどその顔は

やっぱりどこか疲れているようにも見えて





「………いいよ」




前までの私なら「嫌だ」と即答していただろうけど




『癒す』がどんな内容であろうと


春が相手なら" 嫌だ "の文字は浮かばないのだ。

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