酔いしれる情緒



「ごめんね。意地悪した」






春の唇が頬に触れて、私は軽く身をひく。




「やめて」と言いたくなった。




だって、その唇は、



さっきまであの人と。






「冗談だよ」






頬に触れた唇が



今じゃ、耳元にある。






「仕事の話をしていただけ。

凛が心配するような事は何もしてない。」



「由希子さんは俺の仕事に必要な人なんだ。」



「仕事上の関係だけで、それ以上の深い関係なんて一切ないよ」






自然と耳に入ってくる言葉の数々は


私の荒れた心を落ち着かせるものと、

二人の関係性について。






「由希子さんに凛の存在を隠したかったのは、凛がここから追い出される可能性があったから。」






口付けは耳から額へと移り、


なんだかこの甘さがむず痒くて

逃げ出したい気持ちになっているけれど



逃げ惑う身体は素早く腰に回された腕によって捕えられてしまう。






「若い女の人と一緒に暮らすのは、俺の立場上良くないことなんだ。」






ギュッと引き寄せられてしまえば、もう何も出来ない。






「っ…じゃあ、なんで、私をここに連れてきたの…」





動かせるのは口のみで


だからこそ、気になったことを聞いた。





危険を冒してまで、私をここに連れてきた理由を。




私の事が好きだからって理由でここに連れてきたのだとしたら、危機感なさすぎでは?


< 151 / 325 >

この作品をシェア

pagetop