酔いしれる情緒






「俺もこんなに熱中するのは初めてでさぁ」





春の美しく整った顔がすぐ間近に迫り、射抜くような視線を浴びて心臓は心地よく高鳴り始める。





「凛を初めて見た時

この人を俺の世界に引き込みたいって。
捕まえておきたいって、そう思ったんだ。


だからここに連れてきた。」





強引に物事を進めがちなコイツ。






「一目惚れってやつなんだろうね」






けれどその瞳に捕らえられては、なんでこうも悩みなんてどうでもいい気持ちになってしまうんだろう。





「春…っ、コーヒー、が、」





冷める。




私の口は最後まで話すことを許されず、

甘えるみたいに首筋から始まったキスが口元へと移る。



カタン、と音がしたのは
背中がキッチンカウンターにあたったから。





クシャリと乱れる髪。




求める欲が強い時


彼はいつも後頭部に手を回し





「お預け食らってたんだから、
ちょっとぐらい激しくしてもいいでしょ?」




息もさせてくれないような口付けをしては



苦しさに涙を浮かばせる私を見て

心底嬉しそうな顔をする。





悔しい。



けど、嫌じゃないのが、もっと悔しい。





桜田紬との関係性だとか

キスシーンだとか

由希子さんと二人っきりの時間とか




春のことを今私が独占しているのだと思うと、その悩みはあっという間に消えてなくなってしまった。





消えた、というよりも。



考えられない、の方が正しい。





深く深く交わる熱。



耳に伝わる音。

視界に映る端正な顔立ち。




脳内に広がるのは春の事ばかりで。





(もう少し……だけ…)





心も身体も


前にも後にも





もう逃げ場なんてものは無いらしい。

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