酔いしれる情緒
数ヶ月間共に過ごし、
想いを伝えて触れ合っても
" まだ "
春はその言葉で私の前に壁を作る。
なんだかそれが
とても寂しく思えた。
吹き込む風が春の髪をふわりと揺らし、そんな姿でも様になる彼を真正面から見つめる。
「─────…」
春は何かを言いかけていたけど
それが言葉として出てくることはなく、
「俺の、大切な人だよ」
一度閉ざした口を開けて、弱々しい声でそう言った彼に納得ができるわけがない。
私が聞きたいのは、
そんな曖昧な言葉なんかじゃなくて。
握り締めていたそれをもう一度春の前に掲げる。
クシャクシャにしてしまったせいで少し見にくくなっているけど、春はもうこれが何なのか分かっているんだから、気にしなくていい。
「働いているところ見てみたくないかって、言われた。橋本さん曰く、ここに行けばアンタの姿が見れるんだって。」
「嘘だ。騙されてる。
もちろん何度もそう考えた。
……けど、もしそれが本当だったら?
この場所に行くと、この目で確かめられる。
" まだ "の先をちゃんと知れるってことだよね?」
春の顔から笑みは消えた。
私はそんな春から一度目を離し、
少しだけ深呼吸をする。
心も脳内も冷静。けど、この後に続く言葉を発するにはもう少しだけ落ち着きを取り戻したかった。
「────だったら行きたい。そう思ったの」
春を困らせる、それを分かっている上で伝えなくちゃいけないから。