酔いしれる情緒
「付き合ってるなら付き合ってるって早く言ってほしいよね~ 曖昧なのが1番イヤ!」
「分かる~! ファンだからこそ、その辺ハッキリしてほしいというか~」
この参考書コーナーの裏側には小説コーナーが。
私はそこの補充を終わらせ、裏側の通りに向かう。
そこには高そうなスーツを身に纏っている男が1人。
言っていた通り、橋本は小説コーナーにいた。
何かを読んでいる橋本の隣の本棚前に立ち、その場でしゃがむ。そして本棚の1番下にある引き出しを開けた。
「……って、言われてますけど。
早く戻った方がいいんじゃないですか?」
「んー?何の話かな」
「この近さで聞こえていなかったとは言わせませんよ」
「集中して読んでたからね」
「………………」
……って言われると反論できない。
私も本を読む時は没頭して聞こえなくなる
タイプだし。
「……、そうですか」
「なんて。冗談です」
「………………」
「そう睨まないで。
ちゃんと聞いてましたから」
少しでも納得してしまった自分が恥ずかしい。
絶対名刺裏に紹介ポップ書いてやる。
「で。安藤さんはどう思います?」
「なにが」
「さっきの話。一ノ瀬櫂の熱愛について」
「…………別に。いいんじゃないですか?恋愛なんてその人の自由なんだし。他人がどうこう口出しするようなことじゃないんで。」
すると橋本は読んでいた小説を閉じると元にあった場所に片付けた。
私の元に広がる黒い影。
橋本が私の横に立つ。
「裏切られた。そう感じていたり?」
「………………」
その言葉を聞いた途端に、また、首元が苦しくなった。
あのネックレスに締め付けられているような、そんな感覚。
そういえば春に首を絞められこともあったなと、こんな時にふと思い出す。
『会えない間に、俺の知らない時に。
奪われてしまうくらいなら今ここで凛を殺して俺も死ぬ。』
そう言って私の首を緩く包み込んだあの手。
本気だった。あの時の春の目は。
だからこそちゃんと愛されているんだと感じた。
信じてた。
心配はいらないと、そう思ってた。
そして今になって気付かされる。
あんなの、ただの口約束に過ぎないと。