酔いしれる情緒
ホッと一安心してしまったことがバレないように、私はひとつ疑問に思ったことを口にして意識を逸らしてみる。
「でもそれって……今流行ってるんでしょ?腕にそーゆーヘアゴム付けること。だったらそれがアンタだっていう確証なんて…」
身近な人で言えば……真二くんとか。
あと、お客さんが付けているのを何度か。
ならその業界の人達にだって付けている人は少なからずいるだろうし…
すると春は一瞬目を見開いたが、スグにふわりと笑みを浮かべる。
「へぇー…流行ってんだ?コレ。詳しいね」
「真二くんがそう言ってたから」
「シンジくん、かぁ…」
一瞬春の目が細く鋭くなった気がした。が、元の顔に戻っては何事も無かったかのように話を進める。
なんだ?今の。
「凛の言う通り、もちろん確証はない。身体の一部が映ってたただけで顔を撮られた訳じゃないし。」
「だったら…」
「でも。それが確証の無いことだとしても、記者はそういうネタが好きだから些細なことであっても大袈裟にしたくなるんだよ」
その話を聞いてバックミラーに視線を向けたが、ついさっき由紀子さんが撒いたおかげでそこに記者を乗せた車はいない。
「だから今回も大袈裟に広めてもらおうかと思ってたんだけどな~」
「すみません…。いつもの癖でつい…」
「ああ、ごめん。由紀子さんが悪いわけじゃないよ。アイツらの追跡の仕方が下手なだけ」
春は由紀子さんと話をしながら
また私の手を握っては指先を軽く絡めてくる。
私はその行動に答えることなく、ただただ春の横顔を見つめてた。
するとその視線に気づいたのか
春はニコッと笑って。
「でも大丈夫!」
「は…?」
「ちゃんとここに来るよう仕向けてあるから」
それの一体どこが大丈夫なのか。
仕向けちゃダメだろ、仕向けちゃ。
せっかく撒いてくれたというのにまた追われる身になりたいらしい。
コイツ、ドM確定だ。