酔いしれる情緒
「それまで散歩でもしてよっか!」
「ッ、え!?」
理解出来ないまま私は春に腕を引かれ、いつの間にか停車していたらしい車から引っ張られるように外へ出た。
暖かい場所から寒い場所へと移り変わると一瞬にして身体が冷え込んだ。
さっきまで暑くてたまらなかったのに今じゃ寒くて凍え死にそう…
まあ今の自分の服装が薄着にエプロンってこともあって寒さは尋常では無い。
しかも風もちょっと強い気がする。
それから……なんだろう。
あまり嗅ぎ慣れていない……潮の香りが、する。
だけどその香りは途中で途切れて
「俺のやつ、凛が着ると大きいね」
今じゃ嗅ぎ慣れた、私の好きな香りいっぱいに包まれている。
「………寒くないの?」
「うん!全然大丈夫。俺暑がりだから」
「寒くて朝起きられないくせに?」
「朝に弱いだけだよ~」
上着を引っ掛けてもらうと徐々に身体がポカポカと温かくなっていく。
もうこれで十分なのに、春は更に私の首元へあの大きめマフラーを巻き付けた。
「もう大丈夫だってば…これはアンタが付けなよ」
「いいからいいから」
普通のマフラーと違って大きいそれは
私の顔をすっぽりと隠してしまうほどで。
「小さいな~」
「いや大きいの間違いでしょ」
マフラーの話をしているんだと思った。
だからそう否定すれば
春はそのマフラーを綺麗に整えて
「凛の顔が、だよ。」
私の頬をさらりと撫でる。
その手はこの寒空の下でもポカポカと温かかった。
「……あったかい」
「でしょ?俺体温高い方なんだよね。
だからカイロ代わりに使っていいよ~
いつでも温めてあげる」
「…………………」
あははと笑ってみせる春はきっと冗談混じりでそう言ったんだと思う。
カイロ代わり……か。
「……それもいいかも」
私はその話に乗って
スリ…っと、その手に頬を擦り寄せた。
冷えた頬にちょうどいいぬくもり。
なんだか……今になって実感する。
本当に春がいるんだなって。
テレビとか雑誌越しなんかじゃなくて、
こうやってぬくもりが感じられる距離に。