すずの短文集
書き続ける彼の行く末を
その小さな部屋には、たくさんの本が積まれていた。

襲いかかる試練を乗り越えようとする話、
魅惑的な魔の者の語る教訓のような小話、
運命に翻弄された、人ならざるものの話、
次々と真相が明かされる驚きの箱のような話…

書いたのは全て、その部屋の住人である一人の男。

今日も彼の書いた話の登場人物たちは、それぞれのいる自分の世界から彼を見守る。


彼は時々気付いて振り返る。
けれど『彼ら』は彼に語ることはない。

彼はずっと書き続ける。

『あなたは進めるのね。その物語の時を。』

登場人物の、誰かが言う。彼には聞こえない声で。

『そうさ。あいつはそういう奴だからな。』

また誰かが言う。また彼には聞こえない声で。

彼は書き続ける。
自らの創り出した『彼ら』に見守られながら。

今も、これからも、きっと。
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