すずの短文集
この道歩いて
歩き続ける一人の彼女。
何も知らないまま、暗くまだ何も見えないその世界を、ひたすら真っ直ぐに。

自分の目指す終着点もあるのか分かっていないその世界。

不安げな顔に、それでも、ゆっくりでも進もうと運び続ける足。
たった一つの心の支えである『身守』だけを手に進む。


進み続ける最中、温もりを感じて背中を見ると、温かい、いくつかの星が彼女の背中を押していた。

その後も時々感じるぬくもりに後押しされながら、彼女は歩くのをやめない。


そのうち彼女は周りを見渡した。
歩みはゆっくりとしたものに変わっていく。

周りが少しずつ明るく見えてくると、広すぎるその世界が目に映った。

見渡す世界に見知った姿があるはずも無く、無造作に伸ばした手に、残るものもさほど無い。


ゆっくりと歩き続けていた彼女はその世界に不安を感じ始め、いくつもの光る星を見つけると、その一つに近づいた。

小さく温かい星。
彼女は時々立ち止まりながら、開けた視界に集まってくる星たちを見つめる。


その刹那、突然の冷たい感触。

自分の体の違和感に見やると、黒い腕が何本も、まだ暗い、周りに見える闇から伸ばされ、彼女の手足に絡みつこうとしていた。

「…!!」

とうとう彼女の歩みは止まる。


まだ薄暗く、前も後ろもわからないその世界で、彼女は星のぬくもりが消えないことを祈りながらしゃがみ込んだ。

闇の手は彼女を取り囲んでいる。

強く目を瞑っても分かる周りの喧騒に、心が酷くざわついた。

「…ただ自分は、少し立ち止まって周りを見ただけ…それなのにもう、何も分からなくなり進むべき道も見誤るなんて…」

周りは何事も無いかのように、変わらずたくさんの星が輝いている。
今の彼女には星たちは眩しすぎた。

「周りなんて見るんじゃなかった…自分らしく進めなくなるくらいなら…!!」

何もない世界でしゃがみ込み続けていた彼女は突然立ち上がり、今まで来た道を探して走り出した。

「やり直そう、今ならまだ…」

戻れるかはわからない。
ただ、握りしめた『身守』を失わない限り、自分のことまで見失わずに済む気がした。

逃げるのだと思われたとしても、自分の本当に行きたい道を見つけ、歩き続けるために今は…
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