すずの短文集
その川は
いつの間にか、自分は川を漂っている。

流れに揉まれてグシャグシャと、右も左も上も下も分からない状態から、いきなりまた穏やかになる感覚を不定期に繰り返して。

突然現れた川の分かれ道で、向こうに行く誰かが私に手を振る。

私の流れる涙は川の流れに消えていく。

私のさよならの言葉も川の流れの音に混じって。

そうしてずっとずっと流れに身を任せていたら、私の体はいつしか見えなくなっていった。

私に見えるのは川の流れだけ。

流されて流されて、私はどこに着くだろう?
自分の姿も見えなくなって、そのことに疑問も持たなくなって。

流されながらもう一度後ろを振り返ってみたら、私の流れて来た場所が見えた。

そして私と別れた誰かは、私とは反対に色が濃くなっていく。

私は消えていく。
姿の消えた私は川に溶けて、川の水の一部に。


誰にも知られないまま私は消えて、流れる川だけが残された。
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