想いのままに心のままに ~結婚より仕事の30女が身ごもりました~
「どう美園さんを支えたらいいか自分にはわからないから、どうかあなたを支えてほしいと懇願されました。」
頭で考えるよりも先に涙が溢れる。

「いやぁ、昔の私と重なりましてね。妻がどんどんと私を忘れていって、私は過去の妻との時間が長すぎて、この仕事をしているのに激しく動揺してしまった。過去の幸せとカタチは変わっていくのに、それを認められなくて、受け止められなくて、いろいろなことが分からなくなってしまった。」
優しく穏やかな口調で話を続ける医師。
「でも、はじめにいったでしょう?今私は幸せだって。カタチは変わったけれどやっと見つけた。今の私たちの幸せのカタチを。こんなにも今心穏やかにいられるのはやっぱり妻がいてくれるからなんですよ。」
流れる涙を拭かないまま、話を聞く恵理。
それまで知らないうちに入っていた肩の力が抜けていくような気がした。

「彼は今、どうしたらいいかわからないのでしょうね。昔の私のように。愛する人を、愛しているからこそどう支えたらいいかわからない。妻が、もし急に記憶が戻ったら今の状態の自分の姿に幻滅するでしょう。そして、妻と私の関係を見て後悔したり苦しんだりするでしょう。それだけ、妻は私を愛してくれましたから。何年も。何があっても。私は妻を愛しているからこそ、はじめ戸惑ったのは、妻が変わっていくからじゃない。変わってしまう妻と私の関係を、妻が許せないだろうと知っていたからだ。」
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