海とメロンパンと恋
嬉しい嫉妬



「胡桃、ありがとうな」


桐悟さんは帰りの車の中で
何度も何度も“ありがとう”を繰り返した


不安定だった藍斗君のことを
心底心配しているから


今日の藍斗君の様子は嬉しかったらしい


「藍斗君のお父さんからも
沢山お礼を言って貰ったから
パンを焼いて良かった」


「クッ。そうだな」


「え?なにかおかしなところがあった?」


急に笑った桐悟さんの
笑いのポイントがわからない


「悪りぃ」と頭を掻いた桐悟さんは


「頭を“藍斗君のお父さん”って
表現するのが意外だった」


そう言ってもう一度笑った


頭の中ではずっと“青鬼”と思っていたけれど
それを口にするには違う気がして


藍斗君に“友達”と言ってもらえたからには


藍斗君のお父さんという表現が一番合っている気がした


「・・・でもな」


「ん?」


「頭が・・・」


そう言ったまま黙ってしまった桐悟さんは
何か考え事をするように眉間に皺を寄せた


「どうしたの?」


「・・・甘かった」


「・・・ん?」


「胡桃が取られるかと不安になった」


「・・・え」


サッと長い腕が伸ばされて
ギュッと抱きしめられる


「姐さんだけしか見ていなかった頭が
胡桃と一緒に居ると楽しそうだった」


桐悟さんの口から溢れるのは


「姐さん以外で声を上げて笑うのは
二ノ組の冷鬼くらいのもので
基本、身内以外には視線すら向けないのに」


ヤキモチみたいで


不謹慎だけど・・・嬉しい


「フフ」


遂に堪えられなくて漏れた笑いに


「・・・胡桃?」


桐悟さんはサッと身体を離した









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