海とメロンパンと恋
ずっと





(胡桃)

「・・・おはよう」


最近の私は桐悟さんのモーニングコールで起きる


(二度寝禁止)

「うん」


甘い声に起こされて一日が始まる
そんな毎日がなにより大切に感じられるから

恋って凄いと思う


(内緒はないな?)

「フフ、ないよ」


このやり取りは藍斗君からの依頼で
メロンパンを焼いて以降始まったもの


藍斗君から突然電話がかかった時には驚いたけど


『メロンパンがたべたいの』


そのお願いは叶えてあげたいと思うほど可愛かった


(胡桃は俺のだ)

「フフ、ヤキモチ」


三歳の藍斗君にも嫉妬してくれる桐悟さんに


いつもいつも甘やかされて
楽しみになっている来春より
今月中には四国に戻るという現実と戦っているのは内緒


(今日も柚真とお昼か?)

「うん」

(じゃあ、帰る頃に迎えに行く)

「ほんと?」

(あぁ)


桐悟さんに会えるというだけで
声のトーンまで上がる私を


(後でな)


甘い声が追い討ちをかけてくる


「うん」


なんとか声を絞り出すと携帯電話を胸に抱えた


「フゥ」


泣いちゃいそう


二十二歳にもなって感情のコントロールができないなんて

子供丸出しじゃない


暫く桐悟さんの甘い声の余韻に浸っていたいけれど


現実はゆっくりもしていられない

サッと着替えを済ませて
いつもより足取り軽く家事に取り掛かった


二人分のお弁当を詰め終えると
ちょうどアラームが鳴った


廊下を滑るように走って


「お兄ちゃん起きて〜」


今日一番の大きな声を出した


「煩せぇ」


のっそりと起きるお兄ちゃんは通常運転のようで


「頑張って〜」


今日は優しい気分で応援まで出来た

そんないつもとは違う私に

お兄ちゃんが気付かない訳もなく


「・・・っ」


部屋を出ようとした私の肩が
ガシッと掴まれた


「待て」


「ん?」


「まさか、デートじゃねぇだろーな」


「フッ、正解〜」


「俺が夜居ないからって門限は変わらねぇぞ?」


「え?夜居ないの?」


「チッ」


朝からよく不機嫌になれると感心している私に


「気をつけろよ」


長身のイケメンは寝癖もお構いなしに片目を閉じた


「フフ」













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