タングルド
Crow・・・カラスの様な黒髪のバーテンダー和也がニコニコと迎えてくれた。

「今日もローゼス?」

「ええ、ロックで」

席に着くと隣で賢一がグラスを持ち上げニコリと微笑む。
「お疲れ様」

仕事中の賢一はあまり表情を変えることはない、それでも感じが悪いというわけでは無いしはっきり言って仕事はできる。仕事が出来るのに目立たない、出世に有利になるようにアピールする同僚が多い中、賢一にはそれが無い。だから、この1年間ずっと違和感を感じていた。

だから、こんな風に表情が変わる姿に興味が湧く。

「お疲れ様です」と言って賢一のグラスにローゼスのロックが入ったグラスを合わせるとグラスの中の氷がカランと鳴った。

「昨夜は色々とくだを巻いたりしてすみませんでした」

すっかり黒歴史を作り出してしまったが、和也さんは聞き上手だし吐き出すことができて正直に言うと気が楽になった。誰にも言えず一人でいたら今日は仕事も出来なかったかもしれない。
まぁ、その後の行為も忘れるために一役買っているとも言えなくも無いけど・・・

「そんなことはないですよ、むしろ楽しく飲んでいただけて良かった。まさか、賢一くんのおも」
「あああああ、雪はバーボン好きなんだ」

和也さんが何かを言おうとしているところに賢一が言葉をかぶせると和也さんは楽しそうに笑いながらミックスナッツをガラス製の小皿にのせて目の前に置いてくれた。

「う~ん、バーボンというよりはフォアローゼスが好きなの、昔読んだ小説に出てきたから。賢一のは?」

「ジントニック、実は和也はカクテルのコンクールで準優勝かなんかしたんだよね、優勝じゃ無いところが真実味があるでしょ」

「へ~、それなら私もカクテルすれば良かった」

そんな話をしていると賢一のスマホが着信を知らせるバイブ音が鳴り、画面を確認した賢一が一瞬眉をひそめため息をついた。
その姿を見た和也は苦笑いをする。

「その電話には出た方がいいかもね」

「ああ、ちょっと出てくる」

面倒くさそうに外に出て行く後ろ姿を見送っていると、コトリと音がしてテーブルをみると濃いべっ甲色のカクテルが置かれていた。

「どうぞ、賢一くんから」
「え?」

「雪さんが来たら出してほしいと言われてたんだ。ああ見えてロマンチストなんだよね~」

一口、口に含むとブランデーの香りが鼻を抜けるとコクのある深い味がした。
「おいしい」

「キャロルです。カクテルには花言葉のようにカクテル言葉があるんですよ、あえてお伝えしませんのであとで調べて下さい」

そういえば、あまりカクテルを飲んでこなかった。
これからは色々と飲んでみようかな。
「あとで調べてみるわ、でも本当に意外・・・昨日からいろいろな表情を見ている気がする」

「少し話をしていいかな?」
そう断ると和也さんは話しはじめた。
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