タングルド
出勤するとなにかと絡んでくる佐藤さんに捕まることなく、というか見当たらない。
ほっとしながら総務課を抜けて秘書課の自分のデスクに向かう。

賢一は相変わらず社長に同行で外に出ていた。


ブブブッ

スマホが震えて何かしらの通知があることを知らせた。

Ayaだったら怖い

恐る恐る見てみると、twitterではなくLINEのお知らせだ。
よかった

安心して見ると賢一からだった。

『昨日の埋め合わせに夕食でもどうですか?』

会いたい、会って抱きしめて貰いたい。

『会いたい』

『じゃあCrowで待ち合わせをしよう』

『了解』


今夜、会えると思うと気持ちが落ち着いてきた。

スケジュールの確認のため常務のデスクに向かう。
スケジュールを伝え、メールや郵便物について必要なものを報告した後に、昨日の件について謝罪をすると、穏やかに微笑んでくれた。

「豊田さんが謝ることではない、公然と嫌がらせ行為があった事が判明して社としてもよかった」

「ありがとうございます」

「ところで、豊田さんはいつから大島くんと?」

「まだ、最近です」

「そう」


常務がプライベートなことに言及することはほとんどないので、少しびっくりしたが今回は佐藤さんのせいで大ごとになってしまったから仕方がない。

常務から頼まれた資料の作成に没頭しているといつの間にか就業時間も過ぎ人もまばらになっていた。
賢一はまだ戻っていないようなので、先にCrowに行こうとレストルームで化粧を直しながら、ふと先程の常務のことを思い出した。

心配してくれたんだろうか?

無性にお父さんと話をしたくなった。
< 117 / 226 >

この作品をシェア

pagetop