タングルド
賢一の腕の中で見慣れた天井を眺める。




「とはいえ、引っ越しはまだまだ後になりそうだ。本当なら3月中にはあそこに引っ越している予定だったんだけど、俺にとっては思いもよらない幸運が舞い込んだから引っ越しは後回しになったんだ」

「幸運?」

賢一は私の髪を指で鋤きながら、おでこにキスをする。
「そう、烏の巣に迷い込んだ青い鳥を捕まえたんだ」

「それって、私?てか、クサイっ」

「ええええ、こういうセリフが好きなんじゃないの?“俺様御曹司の青い鳥”という本が見えてるけど?」


1週間会えないと言われて、ストレス発散のためにロマンス小説を読み漁りテレビの横にがっつり積んでいた。

ううう、恥ずかしい。
てか、本当に私より年下?
サバ読んでるんじゃないかしら?

「そう言うわけで、雪に振り向いてもらおうと思って、引っ越しなんかしている場合じゃなかったから。さらに、どんどん問題も起こってくるし、でもその一つ一つをクリアしていく上で雪がどれほど俺にとって大切かもわかったから」


お互いの体温を確かめるように賢一の胸に顔を埋める。

「うん、私も。森川さんに婚約者だと言われて、今までの私なら啖呵切って終わらせてしまうけど、それができなかった。賢一を失いたくなかった。もう、身動きができなくなるほど賢一を好きになってた」

「よかった。雪はぜんぜん俺に気持ちを伝えてくれなかったから、不安だったんだ。雪はモテるからさ」

「よく言う。そんなわけないでしょ」

「イレギュラーなISLAND住販の対応もあるし、二、三ヶ月は動けなさそうだな、少しづつ家具を揃えていけばいいか、一緒に揃えてくれるんだろ」

「彼女に言われて森川住販を検索しても全くISLNDとの関わりが出てこなかった」

「あそこと提携なんかしたら、こっちのイメージが悪くなる。だから、関わりを隠して支援していくのは中々骨が折れたよ、あんなに頑張ったのに結局、吸収することになった」

賢一の胸の中にいたはずなのに、気がつくと私の胸の間に賢一が顔を埋めていた。
油断のならない奴と思いながらも、ずっと忙しく走り回っていたんだし、こんな風に甘えられるのも悪くないので賢一の頭を撫でながら話をした。

「明日は騒がしくなりそうね」

返事は無かった。

寝息が胸にかかり少しくすぐったい。

「おやすみ賢一」

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