非常勤講師と受験生
私はお手洗いを済ませた後、荒城くんが女子トイレの扉の前で待っていてくれていた。


「田中ってさー。誰か好きな人いんの?」


荒城くんが急に変なことを言うので、ハンカチを落としてしまった。


「いない!いないよ!多分だけど………」


咄嗟に口から出た言葉は慌てふためいていて、どこか怪しく感じ取れていた。


「もしかしてさ、小林センセーのこと好き?」

「はぁ???」

「やっぱ当たってた?」

「……」


荒城くんに痛いところを突かれてしまったので、言い返す言葉も無くなっていた。


「俺だけのものになればいいのに………」


荒城くんがボソッと呟いた言葉は、遠ざかっていく私には届かなかったのだった………。
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