初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~

大勢の人の前で演奏するのは緊張するけれど、ピンと張り詰めた空気に自分が奏でるピアノの音色が響くのは気分が高揚する。

このときにはすでに、将来はピアニストになると心に決めていた。

そしてマレーシアから帰国した俺は、有名な音楽大学付属小学校に転入し、名高い先生に師事(しじ)する。

厳しい練習に音を上げそうになったのは、一度や二度じゃない。それでもピアノを辞めようとは思わなかった。

コンテストで優勝することがピアニストになる近道だと考え、寝る間も惜しんで練習に明け暮れる。そんな日が続いた十五歳のときに、父親の赴任先がフランスのパリに決まる。

高校を卒業したらクラシック音楽の本場であるヨーロッパに留学しようと決めていた俺にとって、今回の海外赴任は願ってもない機会。

ピアニストになるという夢と希望を胸にパリの高等音楽院に通い、今まで以上に音楽に没頭する。

一流の教授から学ぶことは多く、音楽院の毎日は刺激的であっという間に時間が過ぎた。

叔父さんから「コンサートがあるから日本に来ないか」と声がかかったのは、パリに来てから二年が経ったときのことだ。

イースター休暇を利用してひとりで一時帰国した俺に、叔父さんは「おいしい料理を腹いっぱい食べさせてやる」と言い、タクシーで成城まで移動する。
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