初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
「そうか。それなら見合いの話を進めよう」
彼はただの知り合いだと強調する私に、父親がお見合いの話を切り出す。
隙あらばとお見合いを勧めてくる父親にうんざりしたものの、そこまで躍起になる理由が知りたい。
「どうして結婚を急かすの?」
「小夜子の花嫁姿をこの目に焼きつけたいんだよ」
今までとは違う父親の弱々しい声を聞いた瞬間、嫌な予感が脳裏をよぎった。
オリハラ楽器の社長として忙しい日々を送っている父親も、今年の誕生日がきたら六十三歳になる。いつなにが起きてもおかしくない年齢だ。
「パパ? もしかして、どこか悪いの?」
「いいえ。血圧が少し高いだけで、この前の健康診断でもどこも異常なしだったわよ」
不安げに尋ねると、母親があきれた様子で私の質問に答えた。
「もう」
心配して損したと唇を尖らせる私の前で、父親がコホンと咳払いをする。
「直斗君を家に連れて来るか見合いをするか、どっちかだからな」
「そんなっ!」
強引な決定に不満を訴えようとした矢先、父親が不機嫌そうな表情を浮かべてリビングから出て行く。
今回は落ち着いて話し合うつもりだったのに、どうしてうまくいかないのだろう。
思い通りにいかない現状を嘆いて肩を落とした。