HONEY BUNNY P!NK♡⦅前編⦆
――あ。そうか、あの時。居酒屋の店主が呼んだ名前、私がはじめてモモちゃんって呼んだ時、そして今。〝モモ〟って呼ぶと、何故か、モモちゃんは苦しそうな顔をする。それはとてもとても小さな信号で、普段なら見落としてしまうような僅かな変化。


「ほら!モモ、はやく行こうよ」
「あ、待てって」
「やっぱり誰か待ってるの?……彼女、じゃないよね」
「はあ?なに言ってんだよお前。話を飛躍させんな」
「っ、だよね!ごめ~ん」


二人が並んでいる姿は自然で、絵になっていて、誰から見てもお似合いだなって。そう思うよりも。その、モヤモヤよりも。私の頭はモモちゃんの苦しそうな、悲しそうな顔でいっぱいで。モヤモヤはズキズキと。音もなく感情をすり替えた。ねえ、モモちゃん。


私、これからもモモちゃんって呼んでもいいのかな。


許されるなら、望んでくれるのなら、私は何度だって呼びたい。モモちゃんから手を伸ばしてくれるのなら。私はその手を離さないから。絶対にはね除けたりしないから。お願いだよ、モモちゃん。


あなたの本音が知りたい。心の奥の、秘密の場所を。私だけに見せて欲しい。私以外に見せないで。ああ、なんてワガママな私。
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