宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~


 一花はのんびり島で暮らしているうちに、大切な人達と知り合った、
まず偶然出会ったのが、魚の行商をしていた杉ばあ(・・)だ。

そろそろ梅雨入りしようかという頃…。
一花が日課のウオーキングをしていたら坂道に転々と銀色に光るものが落ちていた。

ふと坂の上を見ると、小さなリヤカーを引いている小柄な人影が目に付いた。

「落としましたよ~。」

思わず声を掛けながら銀色のモノを拾おうとしたら、それは小さな魚だった。

ひとつひとつ飛び跳ねるほど活きのいいそれ(・・)を掴みながら、一花はリヤカーに近付いた。


「元気なお魚ですねえ。」
「この辺りの海で採れたばかりの小アジだよ。」

「へえ~。」
「あんた、この辺の子じゃあないね。」

「最近越してきたんです。」

「なら、引っ越し祝いと拾ってくれたお礼に少しあげるよ。」
「いいんですか?」

老女は真っ黒に日焼けしていたが、ニコリと笑うと意外に愛らしかった。

「スプーンの背で身をこそげて、氷水で冷やして〆る。大葉やショウガやネギを刻んで混ぜ合わせ
 醤油少し垂らして食べてごらん。旨いよ。活きが良いから出来る食べ方だ。」


「うわ~。聞いただけで美味しそう。」
「残った小骨はカリっとから揚げにして塩を振る。いいつまみ(・・・)になるさ。」

「早速、やってみます!」


それから一花は、時々坂道でリヤカーを押す手伝いをして、杉ばあ(・・)に魚料理をあれこれ教えて貰う事になったのだ。

小さなエビを使ったから揚げ。

ばあ(・・)が茹でた絶品のタコ。

どれも抜群に美味しかった。



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