宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~


一花はお嬢様育ちだったので、元々こんな生活をしていた訳では無い。

父の陽介(ようすけ)は大田原家の長男として生まれたが、
語学に興味があったのと造船より国際的な仕事に憧れたので外務省に入省したらしい。

30になってイギリスに赴任していた時、旅行で訪れていた島谷映子(しまたにえいこ)と知り合って恋に落ち、やがて結婚した。

たまたま映子は、大田原家とも関係のある地方の造り酒屋のひとり娘だった。
海から少し内陸に入った小さな城下町が映子の故郷だ。
陽介は一人娘の婿として、古風な島谷の家に入ったのだ。


二人は海外のあちこちで暮らし、長女の一花(いちか)、長男の(あゆむ)を授かった。

家族4人で、父親の赴任国が変わるたびに移動しながら楽しく暮らしていた。
豊かで温かい家族だった。今となっては幸せな思い出だ。

一花はロンドンでバレエ公演を見た時からその虜になっていた。
バレリーナを目指してレッスンに励み、11歳からは親元を離れロンドンのバレエ学校へ進んだ。


あの日…。バレエ団に入る為の試験を前に、ジャンプの練習に明け暮れていた16歳のあの日…。



一花は前十字靭帯断裂の大怪我を負った。手術が必要な大怪我だ。

その頃には家族は日本に帰っていたのだが、
驚いてイギリスに飛んできてくれた父は、ロンドン市内で交通事故に合って亡くなってしまった。



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