宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~


「お待たせしました。新作の瀬戸内風パエリアでございます。」

シェフ自ら、大きなパエリア鍋を運んできた。
重そうだ。一花は後ろに控えていた。取り皿が担当なのだろう。

「糸島さんのご注文でお作りしましたよ。」
「嬉しいねえ。私が魚とご飯を一緒に食べたいって言ったから…。」

「いえいえ、地元のオリーブ、魚介…。いいアイデアを頂きました。」

「アーリオオーリオもご用意しましたが、柚子胡椒と地元のレモンも合いますよ。」

ボリューム感のある料理だが、本当にいい香りがする。

そちらに気を取られていたら、いきなり沙良が手を握ってきた。

「陸さん、聞いてる?」

「ええ、聞いてますよ。」
慌てて、その手を払いのけた。一花の目に留まってなければいいが…。

「だからあ、前は私もニューヨークで仕事があったからお断りしたのよ。
 でも、今回はお受けしてもいいかなって思って…。」

「は?」
「だから、プロポーズのお返事よ。」
「は?」

誰が、いつ、プロポーズしたって?

「あなたが言って下さったら、今回はお受けしますわ?」

「いつ、そんな話になったんです?」

「ですから…。」


不毛な沙良との会話に、つくづく嫌気がさしてきた。



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