鬼麟
 一呼吸置き、感情の乱れなど一切ないかのように振る舞う。

「どうしてホームルームの時間にこんなに生徒が彷徨いているんですか」

 廊下や、窓の撤去された窓枠から覗く視線。今は本来であればホームルームの時間であり、ちらりと見えた各教室内ではそれぞれの担任と思しき先生が教壇に立っていた。
 私と先生が通ると、それまでしていたことを中断してまで見てくる。一体何がそんなに珍しいのか、彼等の目にはどこか期待の︎眼差しも混じっている。
 先生は、ああ、と頷く。

「転校生なんて、滅多に見られるものじゃないですしね」

 そう言われればそうかもしれない。
 以前の学校であっても、転校生などいなかった。
 疑問が納得に変わる中、先生は楽しそうに笑いながら振り返った。

「なんてったって、女の子ですしね」

 女の子、そうか女の子か。
 脳内に反芻した言葉と今まで視界に入ってきた者達は、どう頑張っても合致するとは言い難い。つまるところ、男子生徒しかいないのだ。
 たまに見る女といえば教師くらいなもので、とはいえそれもおばさんの部類に入る頃合の方々だ。
 そんなものなのだろうかと、どこか気が抜けたような気さえした。

「はぁ、そうなんですか」

 私が再度尋ねると、先生は歩調を緩めた。正直早歩きとなっていたこっちとしてはありがたい。

「そりゃ最初はいたんですよ。女の子も。でもほら、こういう場所ですからね。結局みんな耐えられなくなってしまって」

「そう、ですか」

 聞いておいて何だが、曖昧でぞんざいな返事を返す。
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