鬼麟
「ただ、夢を見ただけだから」
怖い夢――悪夢だった。
夢はいつか覚めるものだと言うが、悪夢はいつになっても覚めやしない。身体の目覚めと、意識の目醒めに齟齬が生まれ、あたかも現実へと滲み出たかのように幻を見ることもある。
「本当のことを言え」
彼の目には不満が浮かび、僅かに顰められた眉。上からと下からとで視線が混ざり、そこには相容れない壁が立ちはだかっていた。
「どうして、あなたに話す必要があるの? 私とあなたは知り合いですらない、他人なのに」
だから嫌いだ。
事情も知らないくせに、土足で人の領域へと入り込もうとする奴らは嫌いだ。虫唾が走る。
何故彼に話す必要があるのか。そもそも本当のこととは何なのか。何をもって本当とするのか、ご教授して頂けるとでも言うのか。
傲慢で不遜なその口から漏れ出るのはノイズでしかない。耳障りだ、いっそ憎たらしいほどに。
「自惚れないで、あなたに助けなんて求めるほど落ちぶれてないから。それに、一人じゃなんにもできない臆病者に話すこともない」
廊下に送った視線に、申し訳なそうに眉を下げた倖が姿を現す。隠れていたことに対してか、見つかってしまったことに対してか、彼はごめんと静かに言った。
謝罪なんて求めていない。
修人は何も言わずに立ち上がり、倖へと視線を送る。倖は疑問と警戒に満ちた目で私を見据える。
「棗さん、君は何者なんですか。失礼を承知の上で調べさせて貰いましたが」
何も出てきませんでした。
怖い夢――悪夢だった。
夢はいつか覚めるものだと言うが、悪夢はいつになっても覚めやしない。身体の目覚めと、意識の目醒めに齟齬が生まれ、あたかも現実へと滲み出たかのように幻を見ることもある。
「本当のことを言え」
彼の目には不満が浮かび、僅かに顰められた眉。上からと下からとで視線が混ざり、そこには相容れない壁が立ちはだかっていた。
「どうして、あなたに話す必要があるの? 私とあなたは知り合いですらない、他人なのに」
だから嫌いだ。
事情も知らないくせに、土足で人の領域へと入り込もうとする奴らは嫌いだ。虫唾が走る。
何故彼に話す必要があるのか。そもそも本当のこととは何なのか。何をもって本当とするのか、ご教授して頂けるとでも言うのか。
傲慢で不遜なその口から漏れ出るのはノイズでしかない。耳障りだ、いっそ憎たらしいほどに。
「自惚れないで、あなたに助けなんて求めるほど落ちぶれてないから。それに、一人じゃなんにもできない臆病者に話すこともない」
廊下に送った視線に、申し訳なそうに眉を下げた倖が姿を現す。隠れていたことに対してか、見つかってしまったことに対してか、彼はごめんと静かに言った。
謝罪なんて求めていない。
修人は何も言わずに立ち上がり、倖へと視線を送る。倖は疑問と警戒に満ちた目で私を見据える。
「棗さん、君は何者なんですか。失礼を承知の上で調べさせて貰いましたが」
何も出てきませんでした。