鬼麟
 一向にヘルメットを取らない私に修人はため息をつくと、そのまま手首を引いてすたすたと中へと入って行ってしまう。
 抵抗しながらも純粋な力では男の彼に適うはずもなく、まるで散歩を嫌がる犬のように連れられる。
 中はと言えば存外にも綺麗にされており、荒んでいる様子もない。驚いて視線だけをあちこちに飛ばしている端で、倖が落ちているゴミを拾わせているのを見て納得した。彼がいる限り、ここが荒れ果てることはないだろうと。

「総長、おはようございます!」

 男たちの声が一斉に向けられるのは修人であり、彼は右手を軽く上げれば下げられていた頭を上げて元へと戻る彼ら。
 下っ端であるだろう彼らだが、幹部たちに臆することもなく話しかけているのを見るに慕われていることはわかる。
 そんな中、彼らが私に向けるのは怪しいと言うような視線であり、一人が意を決したように声を上げた。

「あの、そのメットの女なんすか?」

 階段を上がって行く背中に掛けられた疑問。
 しんと静まる中、皆立ち止まった修人の言葉を待っているのだ。振り向いた赤い瞳は質問をしてきた男に視線を送ると、次いで私へと目を向けた。

「......あとで話す」

 静かになった倉庫に行き渡る声に、しかしそれ以上追及する声はなく、総長の言葉に皆納得して何事も無かったかのように戻る雰囲気。
 彼らは修人たちを信じているのだと思うと、どこか申し訳なさが胸を締め付ける。
 たかだか女如きに何かをできるわけがないと思っているからこそ、全てを委ねている彼らに無知の愚かさを説く必要はないだろう。
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