ハニー、俺の隣に戻っておいで
ジェームズは手を広げて肩をすくめ、参ったなあという表情で言った。「要するに、俺の叔父さんはあんたのことが好きなんだよ! 単純な話さ。まさか気づいていない?」

ニーナは仰天して 思わず咳き込んだので口から水が噴き出し、ジェームズの黒い髪と整った顔に吹きかかる。

水が彼の前髪を濡らすと、 軒先の雨のように顔から水が滴り、見苦しい水滴でびしょ濡れになった彼はとても哀れっぽかった。

ジェームズは驚いていきなり跳ね上がり、苦々しい嫌悪感を露わにしてニーナを見つめた。 (ニーナおばさん、いくら興奮しているからってこれはないでしょう……)

「ごめんなさい。 大丈夫?」ニーナは謝罪の表情を浮かべ、慌ててバッグからティッシュを取り出して濡れた顔に置く。「何でそんな冗談言うのよ?自分で拭きなさい」

その瞬間、ジェームズは目を白黒させてニーナを苦々しげに見やった。

彼女が自分の叔母であり、将来できるであろう彼女の子供たちが自分の姪や甥になるというのでなければ、ジェームズは掛けられた以上の水を吹きかけてすぐにでも仕返しやったに違いない。

ところが今、彼はニーナに何の手出しもできず、ティッシュで自分の顔を拭うしかないのだ。 水を掛けられたのは彼なのに、自分で拭き取らなければいけないのだ。何と哀れな!

ジョンおじさんとニーナおばさんがくっ付く運命なのは結構だけど、 俺は側で火の粉を被るってわけか……

不意に、外の道路に停まっているベントレーがジェームズの目に入る。 ジョンが気に入っている三台の車のうちのひとつに違いない。

彼が車に目をやった瞬間、窓がゆっくりと下りてきて、 案の定、運転席にヘンリーが座っているのが見える。

つまりジョンも一緒だということだ。 ジェームズは興奮した。
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