ハニー、俺の隣に戻っておいで
アダムズはイライラしてニーナの耳元に囁く。「ニーナ、安心してくれ。 あなたを連れて来たのは俺だ。俺が責任を持って無事に連れて帰るから」

「大丈夫よ」 ニーナが明るく微笑む。

実際、ニーナにとってその場にいる人々などまったく怖くないのだ。 何しろ、中でも一番有力な人物を何度も打ち負かしたのだから。

彼女はジョンを軽蔑していたが、ジェームズがくれた例のアドバイスを思い出した。 みんなと同様にジョンの言うことを素直に聞けば、彼はこれ以上手を出してこないと言っていたではないか。

ニーナはこの考えに勇気付けられ、ホッとしていた。

「ゴホゴホ……」 誰かがタバコに火をつけたせいで、 日頃から煙の匂いが嫌いなニーナは少し咳き込んだが、誰も気づかないようだ。

ちょうどその時、 ジュ氏がタバコを差し出すとジョンは当然のごとく受け取ったが、 唇に持って行った時に何か思いついたようで、タバコを置いた。

そして、何気なく「俺はタバコなんか吸わない」と言った。 彼が席に着いてから何か言ったのはこれが初めてだ。

けれども、ニーナは呆気にとられ、 無表情な彼の顔をあたふたと見つめた。

他の会食者たちも慌ててタバコの火を消す。 ジョンが吸わないのに、側で喫煙する勇気などないからだ。

「ルーさん、ジュさんに 乾杯されませんか?」 この提案には他の参加者たちもすぐさま相槌を打つ。

ニーナは投資契約を結ぶためにここにいるのであって、 要するにジュ氏に対する チップなのだと、誰もが分かっているのだ。

そして、考え直そうなどと言う者は一人もいない。 ジュ氏は 美しい女性たちが大好きなんだからいいじゃないか。そう言うわけだ。
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