ハニー、俺の隣に戻っておいで
ところが、ジョンの目の前で誰かを殴るのは決して良い考えとは言えなかった。 おそらくニーナもまだ未熟だったのだろう。

ジュ氏の頭に 悪魔じみた思いつきがひらめく。 ジョンを唆してニーナに制裁を加えさせれば彼は漁夫の利を得られるはずで、そうなればこんな会食にわざわざ顔を出した甲斐もあるというものだ。 うまくすると、ニーナをジョンから掻っ攫うことすらできるかもしれない。

「シーさんが 下さったワインですよ。 それを本人の目の前で駄目にしてしまうなんて、無礼千万だね」 ジュ氏が 強調する。 ジョンの権威に傷がついたと指摘することで、彼を誘い込んで罠にかけるつもりなのだ。

けれども、ジョンがそんな見え透いた餌に飛びつくだろうか？ ジョンがライバルたちに加える仕打ちはすでに伝説になっていた。 そして今、また新たな伝説が付け加えられることになるのだろうか？

みんな各自の席で縮こまり、ジョンがニーナに何をするかヒヤヒヤしながら見守っている。

注目の的になったニーナは会食者たちを睨み返し、「何見ているの？ この人を病院に連れて行った方がいいんじゃない？ それとも自力で行くのを待っているのかしら？」

「その通りだ」

「ウィルソンさん、大丈夫ですか……」

ウィルソンの部下たちがようやく手助けしようと駆け寄る。

アダムズはホッと溜息を吐いた。 少なくとも、ニーナは自分の身を自分で守ることができるとわかったのだ。

ニーナは彼の方に向き直ると微笑る。 「アダムズおじさん、この人を病院に連れて行って検査してもらってください。 私はあなたの研究のために30億手に入れて見せますから」
< 210 / 255 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop