ハニー、俺の隣に戻っておいで
あ、私が酔っ払うといつも言うことだわ。 ニーナは少しばかり呆気にとられて ゆっくりとテーブルから手を離し、ジョンを上から下まで眺めた。 そして、酔っ払って人を殴る癖のことを思い、思わず後ろめたさを感じていた。

経験からすると、ニーナはベロンベロンに酔って人を殴るときも全く手加減しないのだ。

幸い、ジョンの顔に殴られた形跡はなく元気そうだ。

もし彼の顔に何かあったら、間違いなく仕返しされるところだが。

ニーナは後ろめたさに唇を噛み締めて振り返り、掛け布団を剥がしてみたが、 昨日着ていた服をまだ着ているのがわかるとホッと安堵した。

しかし、服にはお酒の匂いが残っており、その悪臭は耐え難く、 手で鼻を覆わなければならないほどだった。 けれども、彼女は掛け布団をソファに投げてジョンの隣に腰を下ろし、 謙虚に「ありがとう」と呟いた。

彼女が酔っぱらったせいでジョンは酷い目に遭ったに違いなく、 今しがた述べた感謝の言葉が自分の引き起こした損害を全部埋め合わせてくれることを内心期待していた。

ジョンは生き生きとしていた。 なんにせよ、お嬢ちゃんは感謝の仕方を知っていたのだ。 ぐっすり眠るニーナに一晩中下敷きにされた痛みも無駄ではないと言うものだ。

「それだけかよ?」 不満を装ってそっぽを向くと、意味ありげに悪戯っぽくニヤリとする。

しかし、ニーナは呆然としていた。 ありがとうと言う以外に何ができると言うのだ? ジョンは地位のある男で何不自由していないのだから、物質的な償いなどニーナにはできるはずがないのだ。 彼女は狼狽え気味に「感謝を口にしたじゃない」と呟く。

しかし次の瞬間、ジョンは激しく情熱的なキスをした。

ニーナは呆気にとられて言葉を失い、 彼のハンサムな顔を見つめながら口を閉めるのも忘れてしまったが、 ジョンはそれを利用して舌を彼女の口に突っ込んだ。

感謝を口にするってのはこういうことだ、彼はそう考えていた。
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