ハニー、俺の隣に戻っておいで
第44章 名前で呼ぼう
「おい、待て!」 ニーナが立ち去るというなら、痛がる振りをしても仕方がない。

ジョンは立ち上がると微かに服に寄った皺を伸ばし、 ニーナの意見などお構いなく、単刀直入に「俺が大学に連れて行ってやる」と言った。

「何を言っているの?」 ニーナが驚いて聞き返す。 今、ジョンはなんと言ったのだ?

「本当に大学に連れて行ってくれるの?」 彼女はジョンが返事をしなかったのでもう一度聞き返したが、何かが普段と違うのを感じていた。

彼はまた何か良からぬことを企んでいるのだろうか?

「何か問題でも?」 ジョンが探りを入れる。 なんで信じて貰えないのだろう? 彼女には女性を傷つける悪い男に見えるのだろうか?

しかも、ジョンが彼女を大学に送っていくのは全くおかしなことではないではないか!

彼にしてみれば、何か問題があるようには思えないのだ。

ニーナはすでにジョンのものなのだから、 彼が送るのは当然だというわけだ。

「問題はないけど、今日も仕事あるんでしょ?」 ニーナは抵抗して手を振り挙げ、彼に腕時計を見るように合図したが、 この時すでに朝八時だった。

授業が始まるまでにはまだ時間があったので遅刻する心配はなかったが、 ジョンにとっては違っていた。 今すぐ仕事に向かえば、ギリギリ遅刻せず会社に到着することができるだろう。 しかし、ニーナを大学に連れていくことに拘るなら、間違いなく仕事に遅れてしまうはずだ。

「今日は仕事がないのさ」ジョンが反論する。 彼が時間通りにやってこないからといって、会社の運営に支障を来すなどということがあろうか? 然もなくば、ジョンはどうしてあんなにたくさん人を雇うことに大金を投資しなければなかったのだろう?

目下のところ、ニーナを大学に送ることがこの日の最重要課題なのだ。

一方、ニーナは信じられないという様子で瞬きした。 そんな投げやりな人物がリーダーでは、会社がいずれ破産してしまうのは間違いない。

けれども、ニーナは断る訳にもいかなかったので、 結局、またジョンに大学まで連れて行ってもらうことにした。 そして、ノースヤードを出た瞬間、それは確かに賢明な判断だったという気がしてきた。 というのも、送ってもらわなかったら、大学までかなりの距離を歩く羽目になったはずだからだ。
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