ハニー、俺の隣に戻っておいで
二人はすぐに逃げ出さなければならない。

けれどもニーナは立ち去りたくなかった。 ジョンの独善的な表情があまりにも腹立たしかったのだ。

去り際に顔を殴ってやりたかったが、 廊下から聞こえる喚き声に邪魔されてしまった。

「おい、何してるんだ?」

「ちぇっ! 逃げるよ!」

ニーナを引っ張っていくのに、ミシェルは全力を出さなくてはいけなかった。 さっさと逃げないと!

「おい、待て!」
ジェイソンはミシェルの腕をつかみ、二人を後ろに引っ張った。

ニーナは顔色を変えず、落ち着き払って「離して」と言った。

彼女もジェイソンに立ち向かおうとした。

ジェイソンはそんな小柄な女の子がそこまで荒々しいとは思っていなかったので、 彼女の目に純然たる怒りを見出すと少しばかりショックを受けた。

一方、ミシェルも彼を見上げて驚いていた。
「フー先生?」

ニーナとミシェルはまったくもってついていなかった!

「先生?」
ニーナが唖然とする。 ジョンは怖くないが、先生たちは怖いのだ。

彼女は子供の頃から家族が雇った家庭教師を恐れていた。

「逃げるよ、早く!」
今度はニーナも逃げ腰になりながら、 そっと尋ねる。
「誰なの、その先生?」

「文学部で一番若い教授よ。 私、フー先生の選択コースを受講したの」
ミシェルはへとへとに疲れ果ているようだった。 大変な一日だったのだから無理もない。

しかも、フー教授は文学部で教えているのだ。捕まったら何時間もお説教されるに違いない。

ニーナは説教されるのが嫌だった。
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