迷いの森の仮面夫婦

夏に私からした逆プロポーズに、彼は初め戸惑いを隠しきれていなかった。

ラスベガスで一夜を過ごしたのも私だったと気が付いて、何度も「こんな偶然あるものだな」と繰り返し言っていた。

だから私は提案したんだ。
「私もあなたと同じ。 胸にいつでも違う人を想っている。
けれどどうしてもこの先寂しかったら誰かと一緒にいたくなるでしょう?
そんな時互いに気持ちがなくったって一緒に居てくれるパートナーがいると何かと便利じゃない?
愛さなくたっていいの。必要な時に誰か側にいてくれたらそれだけでも違うと思うんですけど」

そう言ったら海鳳は「何故俺を?」と当たり前の疑問を口にした。

だから私はまた彼に嘘をついたんだ。

「私、心なんていらない」と。
誰かを強く思って辛くなる位ならば、それを抜きに楽に一緒にいられる人がいいと。

それに早乙女先生はお医者さんだから、普通の人より裕福ですよね。 私は強欲な女だから、沢山プレゼントが欲しい。

好きな物を買って、美味しい物を好きなだけ食べて、幸せに生きたい。
そう言ったら、海鳳は「意外に欲望に忠実なタイプなんだな」と毒づきながらも笑ってくれた。
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