言いましたが、 違います‼︎

気持ちがわかる。十分過ぎるほどわかる。

きっと、私があの扉の前に立った時と同じ気持ちだろう。

でも、でもよ。長い、長過ぎる。

慎太郎は寝ているから、起きるまでの時間はまだあるとしても、長過ぎる。

「もう帰ろっか」と言うべきか?

でも、きっとここでやめても、また何回か繰り返して、結局何も出来なかったパターンではないだろうか?さっきまでの勢いはどうした?

人の事に首を突っ込むのは趣味じゃない。
面倒事なら尚更。
でも、ここで引き下がっては女が廃る。


私は大きくため息をつき、永太郎を追い越しインターフォンを押す。

「えっ‼︎ちょっと待ってよ」
「十分待ったわよ」

「情緒って言うか、色んな思いに浸らしてきれないの?」
「あんたの思いに付き合ってたら、慎太郎が小学生になるじゃない‼︎下手すれば社会人よ」

「そこまで時間かからないって‼︎それじゃ、僕の思い出より時間経ってるじゃん‼︎」
「どうせおんなじ事ぐるぐる考えてるだけなんだから、いくらあっても足りないわよ。
それは老後に取っておきなさい」


いつものくだらないやりとりをしている。
視線に気付き、そちらの方を見る。

年配の女性が驚愕の顔でこちらを見ている。
私の動きも止まる。気づいていない永太郎は

「じゃぁ、年を取ったら美紗都ちゃんにいっぱい聞いてもらおうっと」

と話を続けていたがこの途中でその存在に気付き、尻窄みとなった。

そして「加奈(カナ)さん」と呟く。

永太郎の声にハッとした加奈さんは、我に帰り
「雄太郎さん」と慌ただしく中に入っていった。

「帰ろっかなぁ」と逃げ腰の永太郎。

どこかで聞いたことのある名前。聞いたことのある苗字が書いてある表札。

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