今さら好きだと言いだせない
 今日の彼は黒系のスーツに、マルチストライプのネクタイを合わせていて、多色使いのヴィヴィッドカラーがとてもオシャレだ。
 会社にはしてこない感じのネクタイに、つい視線を集めてしまう。


「ようやく俺の良さがわかったか」

「え、前から知ってるよ!」


 ニコニコとしながら彼の冗談に付き合えば、急にフイッと視線を逸らされた。
 彼の顔がちょっとだけ赤い気がする。私が褒めたから照れたのだろうか。


 菓子博の会場に到着して中に入ると、ブースがたくさん設置されており、それぞれの菓子メーカーの社員が資料を片手に商品説明をしていた。


「これ、人工甘味料不使用でもカロリーは抑えられてるし、ちゃんと甘みを出せてるな」

「すごいね。原料の配分を知りたいわ。企業秘密だろうけど」


 サンプルで配っていたお菓子の味見をしながら、会場内をふたりでうろうろ歩く。
 ふたりともなにか口に入ると味の分析をしたくなるのは職業病みたいで、そこは自然と気が合うのだ。

 芹沢くんは味覚が鋭いし食品に関して知識が豊富なので、すごいなぁと実は尊敬している。
 言葉にするのは恥ずかしいので、本人にそれを伝えたことはないけれど。


 あれこれ見て回り、資料もたくさんもらって大満足で会場を出た。

< 18 / 175 >

この作品をシェア

pagetop