今さら好きだと言いだせない
 佐武さんは私より一年先輩で、営業部の女性社員の中で一番美人だと称されているだけあって、見とれるくらい綺麗な人だ。
 まず私とは身長が違う。佐武さんは脚がすらりと長くて、まるでモデルみたい。
 スタイル抜群でその上美人なのだから男性から人気が集まるのは当然だろう。

 芹沢くんとふたりで並ぶと美男美女で。
 会話を交わしている姿は、まるで少女漫画のように周囲にひらひらと花びらが舞っている感じがする。

 佐武さんがなにか話すたびに、芹沢くんが笑いながら相槌を打っている。

 彼は私と話すとき、あんなふうにやわらかな笑顔になったことがあっただろうか。

 そう考えたところで、胸に針が刺さったようなチクリとした痛みが走った。

 ふたりが仲が良かっただなんて全然知らなかった。


 なにを話しているのかはわからないが、佐武さんの綺麗な手が彼の腕に一瞬ふわりと触れた。

 男は勘違いする生き物だと言ったのは芹沢くんなのに。
 佐武さんみたいな美人に触れられたら、いやが上にも意識してしまうと思うけれど。

 私が気にしても仕方ない。
 ふぅーっと小さく息を吐き、ふたりを見ないようにして足早に企画業務部の部屋に駆け込んだ。

 なんだか胸の中がモヤモヤする。
 焼けて焦げついたような正体不明のこの感情をどうすることもできなくて、私は結局この日は絶不調だった。


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